試作二号機 空へ
ヒト型兵器とは、人の形を模した兵器である。
2手2足の形状。高度なマニピュレーターとオートバランサーを有するこの兵器は、あらゆる武装を使いこなし、どのような戦況にも対応することができる、究極の汎用兵器だと言われている。
だが、現実は違う。
現行の主力兵器である戦車と比較すると、生産性は悪く、装甲は貧弱で機動性は低く、おまけに整備性も悪い。
言うなら、使えない兵器だ。
軍でも、少し前までヒト型兵器の計画を行っていたのだが、いろいろあって開発計画は白紙化され、既にロールアウトしている機体は廃棄された。
そう。廃棄された、はずだった。
「くそったれが!」
群がってくる敵の戦闘機に対して、ありったけの銃弾をばら撒く。
どういうわけか、俺はまた、ヒト型兵器のコックピットにいた。
俺が乗る試作2号機は、高出力バーニアと可変翼を持つ空戦使用である。武装は、小口径の機関銃が一門のみ。
正直、鬱だった。
兵器の廃棄には多額の費用がかかるため、軍はヒト型兵器を格納庫の奥底に封印していたのだ。言ってみれば、家電リサイクル法によって捨てるのが煩わしくなったテレビを、倉庫の片隅に放置しておきました。程度の扱いである。
そんなとき、敵大部隊の襲撃に見舞われた。敵の猛攻によって、基地守備隊は壊滅。やむなく、軍は格納庫の奥底に封印してあったヒト型兵器を投入した。
そして、今に至るわけである。
敵は航空大隊。
巨大飛行空母を中心に、無数の戦闘機と爆撃機によって構成された敵の主力部隊である。
対するこちらは、廃棄予定の機体をリユースしているだけの、B級兵器が一機だけ。
数も質も、敵のほうが上だった。
『敵の飛行空母から増援が来てるわ。早く片付けなさい!』
通信機から聞こえてくるのは、ヒト型兵器のを開発主任だった超非常識的感覚を持つ技術ロマンスに心血を注ぎこむ女の命令のような叱咤。
ってか、今やってるっての!
レーダーに、3つの影が映る。
メインモニターで視認。黒色の戦闘機が3機、縦一列の陣形を組んで接近してくる。
敵軍の機体基本色は青。即ち、この3機はパーソナルカラーを持つエースだということになるわけだ。だがこの陣形は明らかに死亡フラグ。
3機の火線を避けつつ、1機目の翼を踏み折り、2機目のコックピットを銃床で叩き潰し、3機目の腹に銃弾を叩きこむ。
敵のエース。話にならない。
背後で3つの爆音が響いた。
どうやらヒト型兵器は、既存の航空戦力に対して相性がいいらしい。
三次元的かつ不規則的な動きで敵の射角から逃れつつ、あらゆる方位に対して射撃を行うことができる。無論、決まった射撃姿勢をとることはないため、射撃時の安定性は低くなり、口径の大きいものや、火薬量の多い弾は使えない。だが、撃ちおろしといった特殊な射撃も可能なために、それらの欠点も淘汰することができる。
今の3機で、敵の第一陣は最後だった。だが、休んではいられない。すぐそこに第二陣が迫っている。
『第二陣、来るわよ。敵は飛行空母まで出してきてる。直接爆撃するつもりね』
メインディスプレイに映像を出す。遠くの空に、芥子粒みたいな航空機が大量に展開している。そして、その背後に一隻、やたらと大きな空母が空を飛んでいる。
敵の大将。飛行空母である。
どういう理屈で飛行しているのかは一切不明。ただ、その積載能力・対空能力は相当なもので、爆撃能力も有しているという、とんでもない相手だ。
基地上空で戦えば、みすみす敵に爆撃を許すことになる。つまりは、こちらから迎え撃つしかない。
バーニアを吹かし、敵陣の中央に突っ込む。
目標は、敵飛行空母の制圧。あるいは撃墜。ヒト型兵器の能力なら、不可能ではないはずだ。
敵の守りは厚い。だが、混戦に持ち込めば、優位に立ち振る舞うことも可能となる。
接敵。無数の火線が降り注ぐが、想定していたほどではない。航空機の射角は極めて狭い。故に、展開している敵機すべてから砲火を浴びることなどあり得ない。
飛行空母までの道を遮ろうとする敵に対し、集中して砲火を浴びせる。
敵機は簡単に落ちる。だが、数が多い。
弾薬欠乏。敵陣のど真ん中で、弾丸が尽きた。
「弾丸切れだ!」
『電磁投射砲で射出する。タイミング合わせて!』
ヒト型兵器はその構造上、積載できる弾薬量に限りがある。当然、弾切れは想定できる事態だ。それに対処するため、電磁投射砲を用いて弾薬を補給するシステムが、この戦場には投入されていた。
『3、2、1、射出!』
機体を基地の方向に向ける。
瞬間、閃光が瞬いた。
閃光に貫かれた無数の敵機が、爆発四散する。
『あああっ! 電圧設定失敗した!』
通信機からは悲鳴。
同時に、試作機の左腕が異常を訴える。
被害確認。左腕、消失。
どうやら、電磁投射砲の初速設定をミスったたようだ。超高速で撃ち出された補給弾薬は無数の敵機を貫き、そして、機体の左腕すらも貫いたのだ。
阿呆だ。間違いなく、阿呆だ。弾切れの上に片腕を失ったヒト型兵器の戦力値は、極端に低下する。その上、今の損傷のおかげで、燃料が大量に流出している。稼働可能時間が一気に減少した。
優勢から一転、劣勢に。
「……しかたねえか」
機関銃を放棄し、機体の軌道を変更。高高度に舞い上がる。
『ちょっと、何するつもり?』
「敵空母に特攻をかける」
『バカ! 止めなさい! これ以上機体壊したら、末代まで呪ってやる!!』
通信機から聞こえる罵声。
というか、左腕ぶっ壊した張本人が言える台詞ではない。
「悪いな。最後に、派手にぶっ壊させてもらう」
機体の推力を下に向ける。
『バカーーー!!!』
通信機から聞こえる絶叫。
敵の艦影が、次第に大きくなってくる。
進路上には敵の戦闘機隊。旗艦にたどり着く前に撃墜しようという腹だろうが、遅い!
機体の翼を?ぎ、即席の接近戦用ブレードを作る。
「そこを、どけーーーーーー」
すれ違いざまに、敵戦闘機の腹を裂き、翼を折る。
だれも、この機体を止められはしない。
敵の対空砲火も、機体の速度を捉えきれていない。
機体は一直線に敵空母に向かい、そして、その甲板を掠めた。
戦場の時間が、一瞬止まる。
誰もが、カミカゼをすると思っていたのだろう。
一瞬、機銃の音が止む。
どいつもこいつも、読みが浅い!
ブレードを、敵母艦の船体側面に叩き込む。
巨大なブレードが、船体を深々と抉っていく。
「うおおおおおおおおー!」
高高度から蓄えたエネルギーは、莫大だ。
それらすべて、ブレードを介して敵母艦に叩き込むと同時に、機体を減速させる。完璧な計画だった。
莫大なエネルギーは敵母艦の表面装甲を破り、内部の骨子を断ち切っていく。そして、俺の機体の腕すらも破壊した。
「あ……」
計算ミスった……。
敵母艦の内部を抉るブレードが奏でる激しい破砕音とは対照的に、機体の腕は、いともあっさりと、小さな音一つ立てて、折れた。
宙に放り出される機体。
両腕損失。翼も失った。
機体は落下していく。バーニアによって、機体の制御と飛行はできるが、それだけだ。これだけ壊れれば、ヒト型兵器に戦う術は残されていない。
それなりにダメージは受けているようだが、飛行空母は、未だに顕在だった。
「くそっ……」
基地に、戦力は残っていない。
敗北だった。敵機を何機落とそうとも、基地が落とされては意味がなかった。
『臨機応変的必っ殺! 発射っ!』
状況にそぐわない喜々とした声が、通信機から聞こえてくる。
同時に、基地方向から一筋の閃光が放たれた。
それは刹那に瞬き、敵飛行空母を貫く。
直後、巻き起こる爆音。
敵飛行空母の土手っ腹に大穴が開き、爆発、炎上しながら墜落していく。
理由はよく分からないが、敵の飛行空母が落ちた。
敵残存勢力は攻撃を中断し、撤退していく。
俺はボロボロになった機体の中から、撤退する敵を呆然と見送った。
後日、戦闘集計の結果より、敵飛行空母を撃沈したのは、試作2号機の支援用に開発された、電磁投射砲であったことが判明した。
敵巨大飛行空母を一撃で沈めたその性能を買われ、電磁投射砲は研究開発・量産が検討されることとなった。
かくして、希代の変人が生んだ駄作な支援装置は、優良兵器として脚光を浴びることとなったわけだ。
尚、ヒト型兵器については、その戦果を取り立てられることもなく、依然、存在しなかったものとして処分されることとなった。
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