これは、大戦中に存在した、とある兵器の話である。
ヒト型兵器。
一般的には、使えない兵器だと言われている。
当然だ。二足歩行という構造上、機動性も低く、装甲も薄い。おまけに、整備も難しい。
つまり、利点がないのだ。
現行の主力兵器である戦車と比べると、数値上の戦力値は半分以下となる。
生産費用は十倍もするというのに。
要するに、使えない兵器だ。
その使えない兵器の中に、なぜか、俺は乗っていた。
「一体どうしろって言うんだよ? おい!」
通信機に向かって叫ぶ。
リフトが上がり、機体は起き上がっていく。
『敵よ。戦車七輌に防衛ラインを突破された。人手が足りないらしいから、手伝ってあげて』
通信機から返ってきたのは、開発主任である非人間的感性を持った女の激励。
「阿呆か! 何を手伝えっていうんだ? 的になれっていうのか?」
アリエナイ。鈍足軽装甲の機体で何をしろというんだ?
『全部避けなさい。スペック上は可能なはず。試作機壊したらブッ殺すから』
返答は、脅迫だった。
なんだよ。つーか、迷彩塗装すらしていない試作機でどうしろっていうんだ。
くそっ。こうなるんだったら、上官を殴るんじゃなかった。
本当なら普通の戦車に乗って、首都近郊のA級戦線で戦争してるはずだったってのに。
気にくわねぇ上官を殴ったばっかりに、戦略価値の希薄なB級戦線で、性能イマイチの二級兵器(戦車ですらない)に乗って出撃するはめになるとは。
心中で後悔しているうちに、機体は完全に立ち上がった。
全長8メートルの巨人である。視点が高い。
人がゴミのようだ……って、呆けてる場合じゃない。
機体各部の状態を示す計器をチェック。
残念なことに異常は表示されない。
異常があれば、それを理由に出撃拒否できたというのに。
格納庫の扉が開く。
あーもう。しかたねぇ。腹括ってやる。
歩を進める。
機体は格納庫を出た。
一瞬、モニターが焼きつく。
外は明るい。敵を発見するのに苦労しないですみそうだ。
「レーダーは、これだな?」
円形のディスプレイを見る。
画面に七つの赤い点が写っている。
赤い点は敵を示している。
友軍がいれば青い点で表示されるのだが、反応はない。
防衛ラインの内側に、予備兵力を残していなかったらしい。
指揮官の阿呆ッ!!
つーか、俺以外に、誰も敵を止められないってことか?
くそったれめ。やってやろうじゃねぇか!
機体を走らせる。
敵機を視認。
敵戦車隊の正面へ。
敵戦車隊の砲塔が旋回し、俺を捉える。
捉えこそするが、撃ってはこない。有効射程圏内に入るのを待っているのだ。
因みに、この機体には武装がない。
射撃戦用武装も、接近戦用武装もないのだ。
よって、原始的な戦闘法をとるしかない。
足元を見る。
B級戦線だけあって、基地の整備状況もB級だ。
足元のアスファルトが砕けて、手ごろな大きさのコンクリート片が見えている。
手に取り、大きく振りかぶる。
「これでも、食らいやがれ!」
全力投球。
コンクリート片は勢いよく回転しながら、先頭を走っていた一輌にぶち当たった。
砲塔が不自然な方向に歪み、沈黙。
この機体の、記念すべき、はじめての撃墜だった。
次のコンクリート片を拾う。
第二球。振りかぶって、投げる。
粉塵を撒き散らしながら飛翔したコンクリート片は、惜しくも敵を掠め、明後日の方向へ飛んでいった。
敵が散開していく。
投石攻撃にびびったのだろう。
二度ほど投石を繰り返すが、当たらない。
移動する的に当てるのは、結構難しい。
とすれば、あとは白兵戦に持ち込むしかない。
敵郡の中心へ向かい、走る。
敵の戦車砲が一斉に火を噴いた。
「食らうか!」
横に飛ぶ。
砲弾郡は機体を掠め、後方に着弾。
「うおおおおお!」
目標を眼前の戦車に決定。
地を蹴り、ドロップキックをかます。
グシャリ、と金属がへしゃげる音がした。
敵戦車、沈黙。
同時に、機体右脚部が異常を訴える。
『あああああああ! なんてことすんのよ!』
通信機から怒声。
「やかましい! 何だ?」
怒声で対抗。
『右足大破したじゃない! どう責任取るのよ!』
「知るか!」
叫びながら、機体を動かす。
敵のど真ん中に突っ込んだのだ。残存する敵は包囲を始めている。
ふと、違和感が襲った。
右脚部の反応がない。
直後、機体が転倒した。
「っう。どうなってんだ? くそ」
転倒の衝撃で全身を強打した。痛い。
『くそじゃないわよ。右足大破してんだから、歩けるわけないでしょ! 馬鹿じゃないの!』
通信機から聞こえる罵声。
「うるせー! そんくらい分かってら!」
こいつ、ぜってーに俺のこと心配してねーだろ。
それよりどうする? 敵は残り5輌。こっちは脚部損傷、全身打撲で満身創痍。
轟音が聞こえた。
敵の戦車砲が、一斉に火を噴く。
「ちくしょう!」
転がり、避ける。
すぐ側に着弾し、破片によって機体の損傷が増えていく。
包囲が狭まっていく。
敵の命中精度も上がってきた。
このままだと、確実に死ぬ。
俺は死ぬのか? こんな得体の知れないものに乗って。
戦略的価値の希薄なB級戦線で?
冗談だろ?
俺が死ぬ?
馬鹿言ってんじゃねえよ!
死ぬわけねーだろーが!
「ううぉおおおおおおおおおおおおお!」
咆えた。それは、俺の魂の咆哮。
生に執着した、野生の目覚め。
「足が無ければ、這って動けばいいんじゃねぇか!」
機体を四つんばいにして動かす。
幸いなことに、右足の損傷は膝より下のみだった。
十分動ける。
右足。左手。左足。右手。
四肢を交互に動かす。
慣れれば簡単だ。
時速45キロ。二足の状態で走るより遅いが、歩行するより早い。
『あ、あんた、キモ過ぎ』
通信機から声。
「言うな! 何も言うな!」
四肢を駆使して這い回る、迷彩塗装すらしていない人型兵器。
巨大な白骨が戦場を這い回ってるように、見えなくもない。
敵もびびったのだろう。明らかに戦意を喪失し、狼狽している。
最寄の敵戦車に接近する。
敵戦車が主砲を撃つ。
「当たるか!」
四肢を駆使し、回避。
そして、跳ぶ。
グシャリ、と膝が敵戦車の装甲を貫いた。
爆発が起こる。
機体全身が軋み、そこらじゅうからオイルが漏れ始めているが、関係ない。
次の目標を求めてレーダーを見る。
敵が撤退を始めている。
「この野郎! 逃がすか!」
右手を踏み出す。
だが、そこで動きが止まった。つーか、壊れやがった。
「な! 動け! 気合い入れやがれ!」
機体は反応しない。
敵は逃げていく。
「くそ! くそ! くそったれがー!」
死人のような機体の中で、俺は咆えることしか出来なかった。
後日、辺境基地死守という大挙を成し得たにも関わらず、この機体は廃棄された。
また、開発計画は白紙化され、公式の記録からも抹消されることとなった。
抹消理由は、《被弾時の機動が常軌を逸脱しており、友軍の士気を低下させかねないため》との事だった。
以降、軍部で人型兵器が開発されたという話は聞かない。
いまだ、人型兵器が開発されていない理由は、技術や生産性の問題ではなく、ただ、精神衛生上の問題なのかもしれない。
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