第五章 準備の目的

 しばらく経って、中央署の玄関前に現れた少女は、かなり変わった身なりをしていた。
 突撃銃を二丁と無反動砲を一門を背中に担ぎ、無数のマガジンを全身のポケットというポケットに詰め込んでいる。
いくつかの手榴弾が、キーホルダーのように腰に吊られていた。
「……戦争にでも行くのか?」
「そうよ」
 尋ねると、少女は肯定した。
「はい。これ、キームの分。防弾ジャケットと、あとは、医療用キット。ほら、さっさと着けて」
「あ、ああ」
 少女に言われるまま、大量の弾薬と、装備各種を装着していく。
 なんというか、状況に流されている感がある。
「それで、こいつは?」
 目の前に停車している大型バイクを指差して尋ねる。
「バイクだよ。ほら、準備できたらさっさと乗って。運転、出来るよね?」
 少女は後ろの座席に乗り、スタンバイしている。
「一応出来るが……これで、どこに行くつもりだ?」
「街の外。ほら、早く乗って! ハンドル持って。時間が無いんだって」
 少女は急かす。
「分かった」
 シートに腰掛け、エンジンに火を入れる。
 グリップのかかりは良好。サスの硬さもちょうどいい。
 ゴーグルをかけ、準備は整った。
「それじゃあ、行こうか」
 少女は、キームの腰に手を回してしがみつく。
「了解した」
 エンジンが、猛々しい雄たけびをあげた。

「それで、いったいどういう事なんだ?」
 街の西門を出て、荒野を走りながら尋ねる。
「何が?」
「さっきの男と、ラーグリスクの関係だ」
「ああ。そのことね。あのさ、ナノマシンって、知っている?」
 非日常的な言葉に、しばらくの間思考が止まる。記憶の中を探り、該当する知識を探し出す。
「一応、知っている。制御が難しく作業効率も悪かったために、実用性なしと判断されて研究されなくなった、〈捨てられた技術〉の事だな?」
「うん。そう。その〈捨てられた技術〉だけど、戦争をしていたころは、最新の技術だった。当然、当時の兵器にも、ナノマシンは使われていた」
「何のために?」
「どんな攻撃を受けても、瞬時に回復する最強兵器にするため。でも、実際は不良品だった。ナノマシンの仕事効率は異常に遅くて、しかも、無作為に部品を集めるから、ナノマシンが修理したものは、歪な形になったと言われている。たぶん、さっきの放火犯みたいに」
「つまり、どういうことだ? 当時の兵器が今も残っていて、あの男は、ナノマシンが修理して今の時代に甦えらせた兵士だっていうことか?」
「うん。たぶんそうだと思うよ。だからさっきも、キームの事を〈戦乙女〉だと思ったんじゃないかな。戦争当時、黒髪の拳銃使いは〈戦乙女〉ぐらいしかいなかったから」
「迷惑な話だ。……待てよ。確か、終戦後、当時の兵器はすべて、廃棄されたはずだろ?」
「うん。フリールとラーグリスクの間で停戦条約が結ばれた後に、軍籍に属するものは全て破壊された。でも、一つだけ例外があった」
「例外? そんなものがあったのか?」
「〈フェンリル〉の話はしたよね」
「ああ。ラーグリスクが造った、全長約300メートルの陸上戦艦だろ? 〈戦乙女〉が制圧して、希望湖に沈めた」
「それにも、ナノマシンは使われていたの」
「終戦時に、破壊されてないのか?」
「たぶんね。あの放火犯も、〈フェンリル〉の乗組員だと思う」
「最悪だな」
 敵の正体は分かった。少女があれだけの重装備をしている理由も理解した。
 敵は、250年前に〈戦乙女〉のキームが潰した〈フェンリル〉という陸上戦艦。少女が重武装をしているのは、〈フェンリル〉と砲火を交えるため。
「まあ、状況証拠から立てた推論であって、物的証拠は無いんだけどね」
 少女はあっけらかんとした調子で言う。
 この推論が、外れていることを願う。
 というより、ふと気づいた。
 どうしてキームは、この少女と二人だけで、強大な過去の遺物に立ち向かおうとしているのだろうか。
「思ったんだが、こういう戦争まがいの事は、自衛軍に任せるべきじゃないのか?」
「駄目だよ。自衛軍は物証がないと動いてくれないし、それに、自衛軍が動く頃には、フリールの街は〈フェンリル〉の有効射程の中に入ってる。それに、〈フェンリル〉は、私たち二人で止めるべきなんだよ」
 少女はおかしな物言いをする。
「二人で止めるべき? どういう意味だ?」
「だってきみ、〈戦乙女〉の子孫でしょ? 先祖の失敗は子孫が挽回すべきじゃない?」
 少女はさらりと、とんでもない事を言った。
 確かに、少女が言っている事は正しい。
 先祖の一人、三代目の〈キーム〉は傭兵をしていて、〈戦乙女〉と呼ばれていたらしい。
 だが、それを、少女が知っているはずは無い。
 少女の前では一度も、三代目に関する話をした覚えはなかった。
「どうして、それを?」
「どうしてって? それはね。私の名前がティルで、私が〈勇士ティルス〉の子孫だからだよ」
 少女の答えは、あまりにも非合理的だった。

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