第一章 穏やかな昼下がり
交易都市フリール
巨大な港を持つ街
さまざまな人々が集まる、国際都市として知られている
フリールの街の一角にある小さなレストランで、キームは食事をしていた。
テーブルの上には定食と新聞。
新聞の表紙には、『相次ぐ不審火』の文字。
最近、放火が原因と思われる火災が多発しているらしい。もっとも旅人であるキームには、あまり関係の無い事柄だ。
ナイフとフォークを使い、手際よく料理を片付けていく。
十五分足らずで完食。
お茶をすすり、余韻を味わう。
「ごちそうさま」
大地と海の恵みに感謝して、席を立つ。
席を立って、初めて気がついた。
レストランの中に、誰もいない。
客も、ウエイトレスも、誰もいなくなっていた。
「無用心だな」
厨房の方を見てみるが、誰もいない。
仕方なく、代金を置いて店を出る。
扉につけられた鈴が鳴る。
本日、天気は快晴。雲ひとつない青空。
レストランの外は、ひどい熱気が渦巻いていた。
なぜか、遠くに人だかりと警官隊と規制線が見える。
ちなみに、ここは規制線の内側。警官隊に取り囲まれている。
「これはいったい?」
状況を判断するための情報が足りない。
警官隊は銃を抜き、ジュラルミンの盾を持っている。
緊迫した空気が漂う。
こういう状況は苦手だ。
シリアスな空気は、息が詰まるから気に入らない。
「誰だてめぇ?」
ふと、真横から非友好的な声が聞こえた。
左90度、距離3メートルのところに、男が一人立っている。
ザ・悪役といった面構え。
右手に銃を持ち、左腕で小さな女の子を捕まえている。
なんとなく、状況は理解できた。
何らかの犯罪行為の後、逃亡を図ろうとする犯人が人質をとり、警官隊を威嚇している、といったところだろう。
「通りすがりの一般人だ」
別に答える義理はないが、とりあえず答える。
「ふざけんじゃねぇ!」
男は逆上。キームに銃口を向ける。
短気は損気。人質をネタに脅しをかけるなら、何があっても人質から銃を離すべきではない。警察の狙撃班は、銃と人質が離れる一瞬を狙っているからだ。
案の定、一発の銃声が響いた。
大気を切り裂き、目の前を一発の銃弾が通過する。
レストランの窓ガラスが割れる。
人だかりからは悲鳴があがる。
そして、男と、男の銃は無傷。
……外したようだ。狙撃手のへたくそ。
状況を理解し、男の顔色が変わる。
怒髪天を衝く、とはこのことだろう。
「この野郎!」
男はキームを狙い、引き金を引いた。
横に飛んで回避。
銃を抜く。
照準を、男の眉間に合わせる。
駄目だ。
今撃てば、確実に男を殺せる。
だが、街中で人を殺すわけにはいかない。
男が第二射を撃とうとしている。
照準を少し左へ。
男が引き金を引く。
回避はできない。
男より僅かに遅れて、引き金を引く。
銃から、空の薬莢が吐き出される。
左腕に焼けるような痛みが走った。
男の撃った弾が、上腕を掠めたようだ。
横に飛び、男の死角へ。
男が動く気配はない。
排出された空薬莢が、地面に落ちて音を立てる。
「終わったな」
銃を収める。
男はその場に崩れ落ちた。
白目をむき、痙攣している。
男が気絶した理由、それは簡単だ。
キームが撃った弾は、男の耳を掠めた。
弾は当たらなかったが、弾が生み出した衝撃波は三半規管を通して男の脳にダメージを与え、男を気絶させた。
ただ、それだけの事だ。
警官隊が男を確保する。
人質も保護され、病院へ運ばれていく。
キームもまた、病院へ運ばれることとなった。
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