終章 流転

 平野の真ん中に、巨大な碑が生まれた。
 〈フェンリル〉という名の、巨大陸上戦艦の残骸。
 その残骸の上で、キームとティルは白んだ東の空を見ていた。

「終わったね」
「ああ」
「その、さ。ありがと。助けてくれて」
「ああ」
 キームの返事はそっけなかった。
 会話が途絶える。ちょっとした静寂。
「ケガ、大丈夫か?」
 ふと、キームは言った。
「え? う、うん。大丈夫だよ。ありがと」
 再び、会話が途絶える。
 キームの様子は、少しおかしかった。
 声をかけづらい雰囲気。でも、放っておけない気がする。
「えーっとさ、キームって、〈死神〉なんだね」
「? 何の話だ?」
「さっき、〈死神〉だって、自分で言ってたじゃない。私は動けなかったけど、意識だけはあったらから、聞こえてたよ。キームの声」
「自分で? 〈死神〉?」
 キームは身に覚えがないのか、呆然としている。
「もしかして、覚えてないの?」
「ああ。実は、ティルが吹き飛ばされた後の記憶がない」
「……そうなんだ。それは大変だけど。うーん。今は、どうでもいいんじゃない? それに、〈死神〉って、キームにすっごく似合ってるよ」
「そうか?」
「うん。そうだよ。〈死神〉ってね、物事の終わりと始まり。万物の転生を司る者なんだよ」
「俺はそんな大それた事は出来ない」
「ううん。そんなことない。だってキームは、〈フェンリル〉を記念碑に変えちゃったじゃない」
「ガラクタだと思うが」
「ガラクタでもいいの。戦争の道具より、よっぽどマシだよ」
「そうかもな」
 東の空から日が昇り始める。
 陽光の中には、無傷のフリールの姿があった。
「さてと、それじゃ、出発しよっか」
 立ち上がり、ティルはバイクに荷物をまとめ始める。
「フリールに帰るのか?」
「え?ううん。それは無理ムリ。実はさ、調達してきた装備一式、警察の保管庫から無断で持ち出したんだよね。今頃私たち、指名手配されてるはずだよ」
 さらりと、ティルはとんでもない事を言う。
「そうなのか? というか、私たちってなんだ? たちって?」
「え? それは、キームも共犯ってこと。だから、私たちは運命共同体」
 ティルはうれしそうに、屈託無く笑って見せた。
 まったく、とんだ疫病神だ。
 どうやら、ティルとの縁はまだまだ切れそうになかった。

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