第八章 艦の長
幾度かの戦闘を消化し、メインブリッヂ前に到達した。
幸いなことに、二人とも無傷。
弾の消耗が激しいが、ブリッヂを制圧できるくらいの弾数は残っている。
「さん、にい、いち、行くよ!」
隔壁を開け、手榴弾を投げ込む。
内部で爆音が響いた。
一気に踏み込み、乗組員の姿を探す。
発見次第射殺。そういう手はずだった。
だが、そこには誰もいなかった。
「どういうことだ?」
周囲を見回す。
乗組員だったものは、全て機材に取り込まれている。
ここには、艦を制御しているはずの人間がいなかった。
「いきなり手榴弾とは、乱暴な訪問者だ」
誰かの声がした。
「誰だ?」
周囲を見回すが、人の姿はない。
「ここだ。若者よ」
艦長席に生えた顔から、その声は出ていた。
「あなた、誰?」
ティルが銃口を〈顔〉に向ける。
「落ち着くがいい。私はテュール。この艦の艦長だった者だ」
落ち着いた口調で、テュールは語る。
テュールだけは、他の兵たちと雰囲気が違った。
他の兵が狂気的だったのに対し、テュールからは何も感じない。
少なくとも、殺気はないようだ。
「艦長だったとは、どういう意味だ?」
「答えてもいいが、その前に一つ聞かせてほしい。戦争は、終わったのか?」
尋ねるテュールの目は真剣だった。
恐らく、彼は知らないのだろう。いや、彼だけではなく、この艦の乗組員全員が未だに終戦を知らず、戦時下の緊張を強いられてきたのだろう。
「ああ。終わった。もう250年も前の話しだ」
「そうか。世界は、平和なのか?」
「少なくとも、こんなものは必要ない」
「そうか。それは良かった」
テュールは、安堵しているようだ。
戦争の勝敗など関係なく、ただ、平和になったことを喜んでいる。
「あのさ、浸ってるとこ悪いんだけど、私は急いでるんだよね。話があるなら、早くしてくれないかな?」
ティルが無情に、雰囲気をぶち壊す。
まあ確かに、のんびりしていたらフリールに〈フェンリル〉の主砲が打ち込まれかねないのだから、焦るのも仕方無いだろう。
「ああ。そうだった。実はな、私は上官反逆罪で射殺されたのだよ」
あっさりと、とんでもないことを言う射殺体。
「我が艦は集中砲火を受け、戦闘には耐えない状態だった。故に私はガルム提督に撤退を具申した。その直後、私は提督に殺された。それからしばらく経って、気づいてみればこの状態だったというわけだ」
「それで、どうだっていうの?」
多少、いらいらした様子で、ティルは尋ねる。
そういえば、話し始めてからずっと、ティルの突撃銃の銃口はテュールを狙っている。
「続きがあるなら早く言って! この艦の現在位置分かってる? 有効射程距離分かってる? 私はこれを早く自爆させないといけないの! 自爆スイッチあるなら、早く教えなさい!」
焦っているためだろう、ティルの口調が荒い。
「現在、この艦の制御はガルム提督がナノマシンを通して行っているのようだ。ここからは制御することが出来ない。提督は、ナノマシン制御室にいる」
「てことはなに? その提督を倒せば、この艦は止まるの?」
「そうだ」
「ふーん。そうなんだ。それで、その制御室はどこにあるの?」
「この部屋を出たところに、小さな螺旋階段がある。そこを降りればたどり着ける」
「それ、ほんと?」
「ああ。本当だ」
「分かった。ありがとね。それじゃ、キーム。早く行こっ!」
あっさり銃を引き、ティルは出口へ向かう。
「なあ。あんた。どうして上官の居場所を教える? 軍人としては、非常識な行動だと思うが」
気になったことをテュールに尋ねてみる。
「なに。どうせラーグリスクは敗北し、軍は解体されたのだろう。ならば、もうに軍規など存在せん。それに、出兵前の私には妻と子供がいた。あいつらはもうこの世にいないだろうが、子孫はきっと、この世界で暮らしている。だから私は、今の平和な世界を守ってやりたい。だから、おまえたちに希望を託す。それだけだ」
「そうか。最後にもう一つだけ聞く」
「なんだ?」
「死んで、生きながらえる呪縛から逃れたいとは、思わないか?」
「……たとえ軍が滅んでも、私は艦長だ。艦長は、自分の艦を見捨てて、先に死ぬわけにはいかん」
「そうか。わかった」
ティルに次いで、部屋をブリッヂを出る。
「感謝するぞ。少年」
背後で、そんな声が聞こえた気がした。
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